自宅の近所に、大きな犬を飼っている家がありました。
犬の種類は、ゴールデンレトリバーだと思います。
体長は1メートル位あり、かなりの大型犬です。
薄茶の体毛で、耳は垂れていて、可愛い目をしている犬でした。
自分は、その家の前を通るたびに、その犬を見るのですが、全く吠えません。
通りすがりの人にも吠えない、おとなしい犬でした。
その家には、高校生の娘さんが1人いたようで、その子がいつも犬の散歩をしていました。
散歩している姿もよく見かけましたが、犬は大きいですが
ほとんど吠えず、おとなしく散歩しています。
それから、その娘さんは、お嫁に行ってしまい、
犬は家のお母さんの方が散歩してくれるようになりました。
お母さんは、大きい犬にじゃれられたりして、
困ったように笑いながら、散歩をしていました。
しかし、そのお母さんが、ある日、救急車で運ばれて行きました。
近所の家ですので、噂に聞くと、体調が悪く、入院中との事です。
その間は、犬は、散歩をしてくれる人がいませんでした。
家の庭にじっとしているようでした。
時々通りかかると、犬は、私の姿をみて、少しだけ寄ってきます。
自分は犬が大好きでしたので、きっと散歩に連れてってくれる人もおらず、
寂しいだろうと思っていました。
それからしばらくして、その近所のお母さんは退院し、自宅へ帰って来ました。
帰ってきたのですが、車椅子に乗っています。
どうやら足の筋力が弱ってしまう病気との事でした。
そのお母さんは、その時、一人で犬と生活していたのですが、一人暮らしは無理のようです。
その家には、娘夫婦が戻って、そのお母さんの面倒を見るようになりました。
車椅子に乗っていてもお母さんは、今まで通りの優しいおばちゃんという感じの笑顔でした。
ただ、自分の自由に動けないのがやはり苦労するとの事、
後は、命が助かって良かったという事を言っていました。
病名は詳しくは聞けませんでした。
噂では、全身の筋力が低下していく病気だと聞きました。
そのお母さんは、最初は車椅子を自分の手で回して動かしていましたが、
それもできなくなり、自動で進む車椅子に替えました。
その頃はもう、その車椅子の女性も60代で、娘夫婦には息子が一人できていました。
車椅子のお母さんはしょっちゅう孫を抱っこして幸せそうでした。
おばあさんは孫を大変可愛がっていました。
孫は、まだ2歳位でしたが、車椅子のおばあさんにとてもなついていました。
足が悪く、車椅子に乗っているという事はあまり理解していないようで、
車椅子ごと、おばあさんだと思っているようでした。
ですので、時々病院におばあさんが行ってしまい、
車椅子のみが置いてあると、とても気になるようでした。
その2歳の子は、「ばあば」と車椅子をさして言うと、その子のお母さんは言って笑っていました。
車椅子が無いと、おばあさんが何か変だと思うようです。
それからしばらく、私自身が出張で家をはずしました。
私は、3年位たって、自宅へ戻りました。
また例の犬とおばあさんのいる家の前を通ると、孫が大きくなっています。
短パンに靴下をはいて、男の子っぽくなりました。
ある日、いつもそこの家の奥さん(元娘さん)が犬を散歩させる時間に
ちらっと道路を見ると、奥さんではない姿が通ります。
犬はいつも通り、おっとりした顔で順調に歩いています。
その後ろに、例の孫の男の子が犬のリードをひいているのです。
そしてさらに、その後ろから、電動車椅子を操って、おばあさんがすいすいとついていきます。
近くの公園まで、1匹と2人連れだって、散歩していました。
その孫は、おばあさんの車椅子をおばあさんと一体と思っているようです。
その小さい手で、車椅子をじっと支えて、公園で休んでいました。
さらに、犬も、おばあさんの車椅子の近くに、体を寄り添って休んでいます。
それから少し砂場へ行ったり、すべり台に乗ったりした後、またおばあさんの前に戻ってきます。
孫は、おばあさんに何かあっても、自分と犬がいるので、大丈夫だよと笑顔でおばあさんに言いました。
おばあさんも笑ってうなづいていました。
自分の知っている頃よりおばあさんは年を取りましたが、
そのしわの混じった笑顔に、幸せがあふれているようでした。
その姿を見て、自分はほのぼのとした気分になりました。
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