私の母は今年で83歳、去年から車いすが必要となりました。
母は今まで一人暮らしをしていて足腰は丈夫、
団地の2階に住んでいて上り下りも全く問題ありませんでした。
80歳を過ぎても一人で近所のスーパーまで
自転車で買い物に出かけられる程だったのです。
ところが去年病気で3ヶ月入院したところ殆ど歩けなくなってしまいました。
「高齢者は寝込むとすぐに歩けなくなる」というのは本当で、
以前の様にシャキッと歩く母の姿は見られなくなってしまったのです。
しかし母はまだまだ自立したいと思っているので、
車いすに乗ることに抵抗を持っていました。
入院中は仕方無いと諦めていたのですが、
退院しても車いすを拒否して自力で歩こうとするのです。
一人暮らしはさすがに無理なので姉の家で引きとることにしたのですが、
散歩をすると言うと車いすに乗せられると思ったのか
黙って外出してしまうこともありました。
ところがある日、散歩中に転倒して頭を打ち
再度病院に連れて行くことになりました。
また入院することになると言われて
渋々と車いすに乗ることを承諾してくれたのです。
そこで今までレンタルだった車いすを正式に買い取ることにしました。
購入するのならば座り心地の良い高級な車いすにしてはと思いましたが、
母は「移動の時に使うだけで、車に乗せることも考えるとコンパクトな方がいい」
と言ったので、シンプルな車いすにしたのです。
実は私も姉もヘルパーの資格を持っていて、
私は過去に2年程介護の仕事をしていたことがあります。
姉は現在もケアマネをしているので車いすの扱いには慣れていたのです。
そこで早速母を車いすに乗せて散歩させることにしました。
ところがヘルパーの仕事で高齢者を車いすに乗せるのと、
自分の母親を散歩させる為に
車いすに乗せるのとでは勝手が違うことが分かりました。
時間が決まっている介護の仕事の場合、
高齢者を「移送する手段」として車いすを使用します。
しかし身内を散歩させる場合には、
車いすに乗せている間も散歩をさせていることになるのです。
介護の仕事として車いすを扱っていた私達に
母は「もっとゆっくり押してくれないと恐いよ」と言ったのです。
私達は目的地に向かってまっしぐらに
車いすで運ぶことしか考えていませんでした。
近くに公園があるのでそこまで一気に母を連れて行き、
そこで歩かせてあげようと思っていたのです。
しかし母にとってはその公園へ行くまでの道のりも散歩の一環で、
車いすに乗っていても満喫したい時間だったのです。
車いすは補助する側にとっては手っとり早く高齢者を運べるツールです。
しかし高齢者にとっては自分の脚代わりであり、
自分に合ったペースで動かして貰いたいと思うものなのです。
それからは散歩に行くのもより時間に余裕を持ち、
「連れて行く」よりは「一緒に散歩をする」という意識を持つようになりました。
目的地は問題ではなく散歩の過程を楽しむことにしたので、
いつも公園へ行くとは限りません。
団地の周辺を回っておしまい、ということもあります。
しかし母にとっては車いすを使用しても自分のペースで
散歩ができることで安心感を持ってくれるようになりました。
途中で車いすを降りて歩くこともできて満足している様子です。
今では出かける際に「車いすで通れるかしら?」と心配する様になりました。
車いすは自宅に置くと場所も取るし、介助する人がいないと
使用できないので面倒だと感じる人もいるでしょう。
しかし本人が納得する車いすを選び、
家族が本人の気持ちを理解してあげることで、
より前向きに外出したいと思ってくれる様になります。
車いすがあれば家族が散歩に連れていってくれる、
母にそう思って貰えるだけで有難いと感じています。
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