介護士として、老人ホームで働いていた頃の話です。
ホームへ新しく入居された方は、骨折をされて寝たきりで、
足が弱っておられ、高齢でもあり、このままでは寝たきりの生活になるだろう・・という方でした。
病院に入院されている時も、もちろんベッドの上での生活。
動けないことで、暴力行為なども少しみられている、との事でした。
実際に入居されてもほとんどベッドでの生活でしたが、
病院よりも手厚く常時介護できていたからか、あまり暴力行為はみられませんでした。
そのうち、ベッドから足は下して座ることができたり、物につかまりながら立位保持することはできたので、
車いすに乗って頂いて、車いすでなら移動して頂けるかもしれない、という方向で話が進んでいきました。
どちらかというと、人に手を煩わせるようになってしまって、こんな自分は嫌だ、という意志を持っておられたので、
スタッフが車いす介助に付き添っているうちに「自分でやってみるよ」と言われるようになり、自走の練習にも意欲的で、
スタッフが見守る中、車いすからベッドへ、自分で戻ったりされるようになっていきました。
2か月くらい経って、安全に一人で車いすからベッドへ、自走して移動も出来るようになられて、
スタッフでの付き添いも必要なくなり、車いすでも、自立した生活を送られるようになりました。
自分でベッドへ戻るときなどは、足の筋力も少しは使うので、そういった自立した生活がリハビリにもなり、
以前よりも立位保持の時間が長くなり、トイレでのズボンの上げ下ろしも自分で出来るようになっていかれました。
入居された当初は「自分で出来なくなって、だめになってしまった」とよく言われていましたが、
「自分で出来るようになったよ」と出来ることを嬉しく話され、また、居室ではスタッフの事を気にしなくてもよくなり、
朝は鏡の前で身だしなみもされるようになり、以前より生き生きされていました。
またスタッフに対して「元気でいられるのは、あなた達のおかげよ」
「こんな風に生活させてもらえて、ありがたい」と感謝されたり、心の余裕もみせられています。
入居された当初は高齢でもあるし、寝たきりの生活になり、長くないだろう、とも言われていた方だったので、
本当に車いすを上手に操作され、自分で好きなように移動されて、笑顔をみせられ、お話されている姿を見ると、
車いすでも、自立した生活が出来ると、ここまで変われるものなんだ、と実感しました。
身体があまり動かなくなっても、悲観するのではなく、どこまで自分が自立できるのか、
追及していくことで、自由を手に入れることができて、楽しく生活していけるには、
自分の意欲や、工夫が必要だと思いました。
家族の方もまさかここまで元気になるとは思っていなかった、ここに入居して良かった、と喜ばれていました。
他の方でも、車いすで自走されている方はいますが、あの人のようには早く進めない・・と
ご高齢ながら、ゆうゆうと自走で移動される入居者さんに驚かれるばかりです。
ご高齢で少し認知症の症状もみられてきてはいますが、
日々の習慣で車いすの移乗や自走は忘れられることはなく、楽しく生活されています。
老人ホームは姥捨て山のように言われる事もありますが、
きっと自宅だったら、車いすの乗り方も分からないまま、
危ないから寝たきりの生活をするしかない、
家族も常に誰かが見ておかねばならず負担も大きい・・など色々あったと思います。
施設内で、車いすで、好きなように移動して、自分の時間も持てて、
自立を実感できてこそ、元気でいよう、もっと自立したいと思えると感じます。
たまに車いすでベランダ近くでひなたぼっこされてうとうとされている時など、
微笑ましく、自由に暮らされている、と実感します。
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