
事務職が長かった私が、2年間ほど認知症の方のためのグループホームで介護の仕事をしていました。そこで初めて出会ったのが車椅子です。最初は動かすのも一苦労で、段差に手こずったり、ぶつけそうになったりと、悪戦苦闘の毎日でした。
働きながら介護の講座へ通い、移乗の技術や安全な操作を学びました。お互いに乗せ合い、トイレへの移乗や段差の昇り降りを練習する中で、利用者様の転倒防止と、介助者の腰痛予防がいかに技術に裏打ちされているかを肌で感じました。

実務では、身体の大きな方や足腰が不自由な方の介助に、細心の注意を払いました。信頼関係を大切にし、お声掛けとブレーキの確認は欠かさないよう心がけていたつもりでした。
そんな私が車椅子を学ぶ立場から「乗る側」に変わる出来事が起きました。自宅の階段から滑り落ち、骨折して入院することになったのです。

入院中、最初は寝たままの移動でしたが、次第に車椅子に乗れるまでに回復しました。研修で乗ったことはありましたが、骨折という痛みがある状態で乗る車椅子は、想像以上に恐ろしいものでした。
ベッドから車椅子への移乗の際、男性看護師さんが「ボディメカニクス」を活用して介助してくださったとき、驚くほど痛みを感じず驚きました。研修で学んだ理論が、実際に患者をいかに救うものか、その身を持って実感した瞬間でした。

いざ車椅子が動き出すと、歩くよりも速く感じ、何より目線が驚くほど低いことに気づかされました。行き交う人々に見下ろされているような恥ずかしさと、いつ転ぶかわからないという不安。「車椅子の方が楽だろう」という私の甘い考えは、一瞬で消え去りました。
この経験を経て、今後どんな場面で介護に関わることがあっても、スピードや目線、揺れにまで気を配り、何より乗っている方の恐怖心を取り除くような介助をしたいと心に誓いました。慌てず、心に余裕を持って接することの大切さを、患者となって学んだのです。
介護の現場で技術を磨かれた方が、実際にケガをされて「乗る側」の視点を手に入れた。この経験談には、教科書だけでは語れないリアルな重みがあります。
「車椅子に乗る=楽になる」というのは、あくまで介助者側からの想像に過ぎないのかもしれません。実際には、目線の低さや予期せぬ揺れからくる恐怖など、乗る方にしか分からない不安があることを、改めて気づかされます。
技術としての「ボディメカニクス」も大切ですが、それ以上に「乗る方の心に寄り添う配慮」が何よりの介助であることを、教わった気がします。貴重な体験談をありがとうございました。
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